高野山から世界へ

法印を成満じょうまんした静慈圓前官ぜんがん、これからの挑戦

救いの探求、
空海を世界へ!

静慈圓前官の「曼荼羅芸術」

令和2年(2020)6月15日、疫病の終息を祈り、金剛峯寺の蟠龍庭ばんりゅうていで開催された「曼荼羅芸術」。墨書と屏風絵と琴音ことねの共演で、人々を五感から癒やす立体曼荼羅が披露された(下記に動画情報も掲載)。撮影/小藪清史(和歌山市)

挑戦1中国に唐代とうだい密教をお返しする

文/静慈圓

これからも続けていきたい
中国での唐代密教の復興

弘法大師空海の研究を続けるなか、空海が唐から持ち帰った「密教」を、中国にお返ししたいと考えるようになった。会昌かいしょう5年(845)の仏教弾圧で継承者である阿闍梨を失い、中国の密教は消滅した。しかしいま、改めて自国を見直す中国の人々のなかで、唐代文化・密教が注目を集めているからだ。これまで次の3つの方向から進めてきた。

学問として密教をお返しする

私はここ20数年、中国において「唐代文化」「唐代仏教」「唐代密教」の国際学会とかかわってきた。このことは自著『空海と共に生きる』に詳しいので割愛する。

阿闍梨をつくる

密教は阿闍梨がいなければ継承できないが、現代中国に阿闍梨はいない。唐代密教を継承していると名乗る偽阿闍梨も出たが、見抜く僧も政治関係者もいない。

そこで、空海からの密教が継承される高野山金剛峯寺に中国の僧を招き、得度を行った。訪れたのは、青龍寺しょうりゅうじ(1984年に日本の真言宗各派総本山会が「恵果空海紀念堂けいかくうかいきねんどう」として再建)の寛旭方丈(住職)で、次いで揚州ようしゅう市・大明寺の能修方丈が得度した。両人は四度加行しどけぎょうを成満、伝法灌頂でんぽうかんじょうを受けて阿闍梨となり中国へ帰った。

能修方丈は、自分よりも3年早く自分の弟子である仁如法師を高野山に送り込んでいた。私は高野山の専修学院に入れた。日本語に精通しており、弘法大師の再来のような若者であった。現在、高野山内の寺院でも、中国僧が加行する例が出てきている。

密教道場をつくる

中国にはすでに密教道場があるが、どこか違っている。日本の阿闍梨がかかわる必要があると感じ、私は現在、2つの道場づくりにかかわっている。

揚州ようしゅう市・大明寺】

現在、大明寺に密教道場「密厳院みつごんいん」を建設中である。中国から設計士などに高野山に来てもらい、種々の建築・道場を見学いただき、構想を練った。また、中国には密教の資料がないため、密厳院に「静慈圓研究室」を設け、私の密教関係の図書をすべて寄付することにした。現在、形は完成し、内装の施工中である。

河南かなん省・妙楽寺】

中国に伝わった釈尊の舎利しゃり19カ所のうち、15番目と記される妙楽寺の舎利塔。中国政府から、国家級の文化遺産に指定されるこの塔を中心に、妙楽寺は現在復興中だ(建物はすでに完成)。

そして私は、妙楽寺の住職・釋延琳法師から、「妙楽寺に接して、唐代密教の伽藍がらんをつくりたい」との要請を受けた。延琳法師は清凉院を訪ね、私も妙楽寺を訪ね、お互いに行き来しながら密教伽藍の構想を練った。現在、中国政府に建設の申請中である(新型コロナウィルス感染症の流行を受け、一時休止中)。

中国における唐代密教の復興には、中国政府も仏教界も関心をもっている。しかし日本の密教者がかかわらねば、正当な密教は中国に帰らない。今後も、この取り組みを続けていくつもりである。

大明寺  密厳院・本堂(完成予定図)
大明寺 密厳院みつごんいん・本堂(完成予定図)中国揚州ようしゅう市に建つ寺院・大明寺に構築中の密教道場「密厳院」の本堂イメージ図。現在、形は完成し、内装の工事に入っている。図/大明寺パンフレットより
妙楽寺 伽藍(完成予定図)
妙楽寺 伽藍がらん(完成予定図) 中国河南かなん省で、唐代の密教寺院として復興中の寺院・妙楽寺。図は、将来完成予定の伽藍の全体図。将来的には、隋唐の街並みを再現した妙楽寺遺跡公園とする構想があり、周辺の開発も予定されている。

挑戦2高野山から空海密教を世界へ

とどまることを知らない
静前官とお大師様のパワー

法印職を成満したのち、静慈圓前官は一息つく間もなく、高野山から「空海密教」を世界に発信することを決意した。

その第一歩が「曼荼羅芸術」である。弘法大師空海の思想を多くの人にわかりやすく伝えるため、写心作家・小川勝久おがわかつひさ氏制作の屏風写心びょうぶしゃしんアートに、静前官が即興で墨書し、琴演奏家の方于まさこリラ氏が即興演奏をつけるというもの。見る側が五感と六感(直観)を通じ、立体曼荼羅の世界を体感できるのが「曼荼羅芸術」である。

静前官はこう語る。
「曼荼羅には、仏の姿だけを描いた『だい曼荼羅』、仏の持物や印のみを描いた『三昧耶さんまや曼荼羅』、梵字悉曇ぼんじしったんで描いた『ほう曼荼羅』、立体曼荼羅とも称される『羯磨かつま曼荼羅』の4種があります。空海は東寺の講堂に仏像を並べ、立体曼荼羅をつくりました。これは、仏は人間そのもの、つまり人間がいる世界は立体曼荼羅そのもの、ということも表現しているのです。

日本を代表する高名な写真家・小川勝久先生の屏風写心アートを見たとき、弘法大師空海の立体曼荼羅を思い出し、感動しました。作品の前に立つと、人間もひとつの仏であると感じられたのです。先生の作品だけで十分なのですが、一緒に新しい立体曼荼羅をつくりたいと強く感じました」。

令和2年(2020)6月15日、金剛峯寺の蟠龍庭ばんりゅうていで初の曼荼羅芸術が披露されることが決定。
「新型コロナウイルスが猛威をふるっています。じっとしていてはウイルスにやられてしまう、人間の側からエネルギーを出していかねばならないと考えました。エネルギーといえば、弘法大師空海です。厳しい山林修行をし、荒れ狂う海を行き、唐で密教を継承した。このエネルギー、生命力を、曼荼羅芸術でみなさまに向けて発信したい。高野山から世界に向けて、心を癒やし、心に栄養を与え、生きる力を育んでくれる曼荼羅を創作したいと思ったのです。

屏風写心アートについて、小川勝久先生にリクエストしたのは『海』です。右隻には若いお大師様が修行中に遭遇し、自身のなかに飛び込んだという明星。それは仏の光でした。左隻には荒れ狂う海と帆船。法を求めて海に飛び出し、九死に一生を得て唐に入った空海のエネルギーを表していただきたかったのです。右隻には『明星來影』、左隻には入唐求法にっとうぐほうを振り返った空海の言葉、中央に『空海』の文字を墨書し、空海のパワーを発信します」

当日の静前官の言葉である。
「弘法大師空海の誓願せいがんは、高野山で行われた万灯会まんどうえ願文がんもんであります。『虚空こくうき、衆生しゅじょう尽き、涅槃ねはん尽きなば、我が願いも尽きなん』。即ち、生きとし生けるものがいなくなり、悟りがなくなるまで、私の救済は続くとの願いであります。高野山から、弘法大師の御誓願に基づき、世界に向けて、コロナウイルス災禍の終息、力を合わせ共に生きる人々へ世界平和のメッセージを発信致します」。

令和2年(2020) 曼荼羅芸術(金剛峯寺・蟠龍庭にて)

「即興墨書」を、ともにつくり上げる3人。
1
小川勝久氏による屏風写心アートに静慈圓が即興で墨書すると同時に、作品からのインスピレーションを、琴演奏家の方于リラ氏が即興演奏した。
2
小川勝久氏による屏風写心アートに静慈圓が即興で墨書すると同時に、作品からのインスピレーションを、琴演奏家の方于リラ氏が即興演奏した。
3
小川勝久氏による屏風写心アートに静慈圓が即興で墨書すると同時に、作品からのインスピレーションを、琴演奏家の方于リラ氏が即興演奏した。
4

【写真❶】「即興墨書」を、ともにつくり上げる3人。写真左が静慈圓、左から2番目が琴演奏家・方于まさこリラ氏、左から3番目が写心作家・小川勝久おがわかつひさ氏。【写真❷~❹】小川勝久氏による屏風写心アートに静慈圓が即興で墨書すると同時に、作品からのインスピレーションを、琴演奏家の方于リラ氏が即興演奏した。小川氏は、写真は心を写すものとの考えから、「写心作家」と名乗っている。撮影/小藪清史(和歌山市)

曼荼羅芸術の模様は、
動画でご覧いただけます

動画

高野山から世界へ ~曼荼羅芸術でコロナ終息を祈る~

From Koyasan to the world ~Pray for the end of coronavirus with mandala art~

日本語版

日本語版Youtube

Japanese

中国語版

中国語版youku.com

Chinese

左のQRコードをスマートフォンのカメラで読み取り、ウエブサイトに移動すると、動画がご覧になれます。

When you scan the QR code, then move to the site so you can see the video.

日本語サイトURLhttps://youtu.be/rYFJt5nAAnE

中国語サイトURLhttps://v.youku.com/v_show/
id_XNDc0Mjk5Nz5Ng==
.html?spm
=a2h0c.8166622.PhoneSokuUgc
_1.dtitle

大明寺  密厳院・本堂(完成予定図)
金剛峯寺に奉納された曼荼羅芸術向かって右側の屏風の漢文訳は「土州室戸崎に勤念す 明星來影す」、左側は「身を忘れて命をふくみ 死を冒して海に入る 既に本涯ほんがいして 中途に及ぶころおいに暴雨帆を穿うが戕風柁しょうふうかじる 高波 漢にそそ短舟たんしゅう 裔裔えいえいたり」。空海の青春時代の情熱が表現されている。撮影/片岡司